卒業式

前の彼女と、卒業式&卒業コンパで会った。部活が一緒なもんでどうしても会うのだ。
って言っても、別に気まずくもなく、別れた事も周りにネタとして喋れる明るい感じの再開だった。どちらも完璧に吹っ切れてるから、と言うのではない。どちらも相手に未練を残していて、大事に思っていて、だから嫌な関係になりたくないから。僕が相手の気持ちまで勝手に書いてしまうのは傲慢にも思えるだろうが、それが分かるぐらいには深い付き合いをしてきたつもりだ。
でも戻らない。
一時の気の迷いだったかも知れないが、それでもあの時、僕は違うコを選んだ。彼女はそれを許してはいけないし、僕は簡単に許されちゃいけない。それが正しいと二人とも知っているから。
宴ではいっぱい飲んだ。ビールを3本、日本酒の500mlのビン2本、カクテル十数杯。むっちゃ吐いた。でもまあ、潰れずに終了した。めっちゃ楽しかった。
その後、実家からの通学で終電も逃した彼女は、僕が泊まった友達の家に一緒に泊まった。周りにはみんな居たけど、みんな酔いつぶれていて、起きているのは僕ら二人だけだった。
彼女に告白した日を思い出した。
あの時、飲み会でみんな潰れた朝、僕は彼女を外に連れ出した。そこで告白して、緊張気味の彼女の手を握った。彼女に言ったら、懐かしいね、って言ってた。暗くした部屋で、何ヶ月かぶりに彼女の手を握った。
「前言った事覚えてる?来年のバレンタインの話」
彼女はふいに話し始めた。
「来年のバレンタインにまだ好きだったら告白してもいいですか、って言ったん」
「覚えてる」
「期待持たせるような事はいえないって言ってたけど、やっぱりもしその時まで好きやったら、告白するね」
「そんなん俺甘やかしすぎちゃう?」
「だから一年はちゃんと別れる。でもそれでも好きならもういいか、って。それに純平、新しく好きになったコにフラれたし」
楽しそうに笑う声に、僕は苦笑するしかない。
「じゃあ俺もおんなじ事するわ」
「純平はホワイトデーな」
「バレンタインに戻れんかったら、その時点で脈なしやん…俺不利やん」
「そんなん言える立場ちゃうやろ」
彼女はズルく笑った。
たった二ヶ月の空白で、僕らの関係は壊れてしまった。僕は他の人に心が動いてしまった。なのに一年後に両方好きな気持ちが残ってるなんて奇跡だ。そんな約束をした事すら忘れているだろう。
でももしそんな奇跡が起こったら戻ろう。彼女はそう言った。
「いつからそんなロマンチックな事言うようなったん」
「純平に影響されてんやんか」
一年間会う事も無く、連絡なんかもほぼする事も無いだろうって状況で、まだ好きだったら。そんな馬鹿げた夢物語を交わして眠った。
 
次の朝、二日酔いの体を引きずって、彼女を駅まで送った。繋がなかった手と交わさなかったキス以外は付き合ってた頃みたいに、笑い合いながら。
「バイバイ」
改札で彼女が手を振る。僕も同じ言葉を返す。
バイバイ、もう会うことの無いかも知れない大切な人。
僕らを繋ぐ霞のように頼りない糸は、たぶんすぐに壊れるんだろう。
でも、壊れるまでは大切にしていこう。そう思った。