ターミナル

映画「ターミナル」を観る。ちなみに就活の一環として見に行った。
アメリカにやってきた主人公のビクター。だが、彼が飛行機に乗っている時に、祖国のクラコウジアがクーデターにより、無くなってしまう。祖国が無いのでパスポートが取り上げられ、アメリカには入国できない。クーデターの混乱により、祖国へ帰る事も出来ない。”法律の隙間”に落ち込んでしまい、彼は空港から出る事が出来なくなる。こうしてビクターの空港生活が始まった……という話。
惜しいなぁ。本当に惜しい。細かい部分のユーモアは非常によく、周りも声を出して笑っていた。僕もつい声を出してしまう場面が何回かあった。大筋でのストーリーも良い。何よりも、「空港で暮らす」と言う描写自体が面白く、その周りの人々の悲喜劇も良い。
悪かった点。まず一つ目は、前から『目的とその達成』と言う事を言っていたが、そこからもう一つ進んだ論理を展開したいと思う。この映画では「空港から出てニューヨークへいく」と言う目的がある。だが、その目的をクリアする条件と難易度がよく分からないのだ。目的があると言う事は、逆に言うと目的を達成するのを困難にしている要因があると言う事だ。この映画では、法律であり、その法律を守る空港警備局長ディクソンがそれにあたる。だが、映画の序盤、空港で暮らすビクターを邪魔に思ったディクソンは、わざと警備員を退かせて、ビクターが外に出られるようにしてしまう。邪魔するものは無い。目的がいきなり達成出来てしまうのだ。その場面では当然目的は達成されないのだが、主人公が監視カメラを気にしたから、と言う理由でだ。このシーンはコメディとして非常に良いネタにはなっているが、物語全体から考えると、駄目駄目だ。(&主人公が純朴であるため、法律を犯すのを拒んだと言うのもある)中盤でも主人公が「祖国へ帰るのが怖い」と言いさえすれば入国できると言う状況をディクソンが用意する場面がある。だがこれも「祖国がなぜ怖いと言うんだ」と馬鹿正直に答えてしまうと言う理由で失敗する。主人公の目的を妨げるべき敵が、目的を達成させようと助けてしまうのだ。また、それにも関わらず、ラストでは主人公の友人になった空港職員を辞めさせると脅してまで外に出るのを防ごうとする。
目的が定まれば、次はその目的を妨げる要因があり、それをどう解決するかで途中の展開が進む事になるのが普通だ。その展開が無く、外に出る事になる最終的な解決も突発的な要因で、突如解決となる。
次の悪い点は、感情の変化に説得力が無い事だ。最初、主人公の孤独の描写が抜群で、その時点で泣きそうになった。数百人の人々が行き交う空港のロビーで、言葉も通じない主人公が周りの人に声をかけても無視され立ち尽くす。多くの人が居るからこそ圧倒的に浮き彫りになる孤独感。この時点で泣きそうになった。基本通り(そして期待通り)最後にはこの多くの人々が主人公を温かく受け入れ、全員で応援してくれるようになる。本来なら感動できるシーンなのに、『無視→受け入れる』の変化の過程が全然上手く描写されていない。突然、変化してしまうのだ。また、敵として描かれていた人物も、突如理由も無く良い人になってしまったりする。この辺りの変化が全く描けていないため、展開に説得力が無いのだ。
上記の二つの欠点は、同じ理由によるものだと思う。映画を観た後に知ったのだが、この映画は実話を元にしているらしい。変な言い方になるが、現実と言うのは、リアリティが無いのである。現実と言うのは、何もかもが論理的と言うわけにはいかない。悪かった人がいきなり良い人になる事も、確かにある。だが、それを創作の中でやると『説得力が無い』となるのだ。創作は『嘘』だ。だからこそ、現実よりもリアリティを持たなければいけない。僕は実話であろうと、映画自体の面白さで評価するため、この説得力の無さは致命的で、感動できるはずのシーンで感動できなかった。まあ、前から実話映画との相性はすこぶる悪い。だから、他の実話映画で素直に感動できた人には、気にならないかもしれない。
悪い点の最後は、クライマックスを分散してしまった点。大筋の目的である空港を出るの他にも、ヒロインとの恋と言う筋もある。他にも何点か、クライマックスと呼べるシーンがあるのだが、これがラスト20分ぐらいに渡ってずるずると迎えられるのだ。空港を出る一番のクライマックスも、ラスト10分ぐらいのところで迎えてしまう。これはラストのラストに持ってくるべきだっただろう。例えば、ヒロインが空港の外で待っているとすれば、空港を出る事と恋のクライマックスを同時に迎えられ、非常にスッキリとしたラストになると思う。まあ、この映画のストーリーを変えないままに演出を考えるとなると、この形にするのは非常に困難なのだが。
まあ、面白くなくは無かった。でも、オススメもしません。