小説「君たちに明日はない」

垣根京介著「君たちに明日はない」を読む。
本気の人たちが、本気で悩み、考え、絶望し、決断する様は、それだけで十分面白い。その意味で、「リストラ」と言う事象に目をつけた時点で作者の勝利は決まっていたのかも知れない。
主人公は三十三歳、「リストラ専門」のコンサル会社社員。様々な会社から依頼を受け、面接を通して自主退職をしてもらえるように、時には優しく、時には相手の泣き所を突いて、リストラを進める。
リストラを受ける人々の人生を賭けた葛藤や、人生を狂わせる仕事をしている主人公自身の葛藤が深くまで書かれていて、そのドラマが凄く生々しく面白い。それでいて軽やかな文体、かつ主人公の周りの少し物悲しい大人の恋愛物語も絡みながら進み、非常に読みやすく仕上がっている。ラストも少し唐突だが、美しいシーン。全く描かれていない涙が行間から流れている。
勢いだけでやっていける年代を終え、そして社会の中で揉まれ、様々なものを背負った『大人』の小説であり、その弱さと強さを書ききれている小説である。面白い。
僕が就活をしているってのも面白さを増していると思う。これは是非、新入社員として今苦しんでいる人たちに読んで欲しい。僕よりさらに、その面白みを増すのではないだろうか。そして、そこらへんの自己啓発本より、よっぽど自己啓発に繋がると思う。